微分積分 (共立講座 21世紀の数学)

本全体を通して程よいトピックを選んである教科書という印象を受けた。多くの例を出し、定義をきちんと理解できるような工夫がなされていた。例えば、数列の極限については、「収束列は有界である」という命題に対し、「有界ならば収束」がなりたたないということをきちんと例で示し、「反例を挙げることによって命題が一般に成り立たない事を示せる」ということを自然と身につける事が出来る。定義に関しても日本語による丁寧な解説が多く、論理記号による記述もそれなりになされている。そういった点で、教科書としてのトピックの選び方が十分であったと言えるだろう。一方で、この本をどういった目的で学生は持つべきなのか？という点で私は苦悩した。教科書として指定するには、この本は持ち歩きに不便であり、ここから内容をしぼって話すとなると、構成に困る部分がある。学生のセミナーとして使用する場合は、証明が書かれ過ぎである。つまり、頭を使わなくても証明が読めてしまうという点で、微分積分までの理解で十分ならば、この本での独習も良いだろうが、この本を読んだ経験が数学を専門とする学生のアドバンテージになるかというとそれは難しいだろう。この本は、一言で言えば「書かれ過ぎ」である。そのため、セミナーとしての使用には不向き（或は甘すぎる）本であると言えるだろう。また、数学を専門とする学生が独習をするのであれば、この手の本を読んで理解出来るの有れば、もう少し証明などが省かれている本を読むべきである。これは上述のように「殆ど頭を使わなくてよい」親切設計であり、数学を専門としない学生にとって、微分積分学に対する理解は十分に深まるだろうが、専門とする学生にとって「証明を考える」ことや「論理的な展開を自分で考える」には、このテキストは不向きである。また、ターゲットとする読者層が定まっていないのか、一部の証明には分かりにくい手法や、くどい手法による証明も多く、数学的な美しさに欠ける印象を受けたことを最後に記しておこう。吹田・新保による「理工系の微分積分学」や田島一郎「解析入門」、小平邦彦 「解析入門I, II」のような本を読んでもらいたい。